めぐろぐ

飛行機は初代塗装の日航DC-8が好きです。ちなみに飛行機の話題はゼロです。日常生活の雑多なことを記載していきます。

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じわじわくる福岡市クリニック立てこもり事件

福岡市は博多や天神地区を中心に古くから企業の支社や行政の出先機関と一部地元企業の本社などの拠点が置かれてきた。国鉄は幹線の列車ダイヤだったりローカル線だと地方だから需要が少ないという東京あたりの判断で利用しにくかったろうが、県南方面へ向かう西鉄や市内の路面電車があり、古くからベットタウンとして太宰府大野城方面に人口増加がみられた。国鉄がJRになってからは列車数や駅が増えて地下鉄と直結する市の西部がどんどん開発され、最近では鹿児島本線沿線の新宮町のような東部も居住者が増えている。

ある程度開発が進んではいるが、昔のように他の都市とを結ぶ片側一車線の国道沿いに運転手向けの飲食店が営業していて、まだまだ田畑が残っている福岡市西部のある地区で2023年5月末に立てこもり事件が起こった。事件は個人経営の医院で起こり、立てこもったのはその医院の院長の医師だった。医師は警察に逮捕されたが、その後謎の不起訴となり放流されている。

報道での自称医師という職業呼称や、クリニックのサイトの内容が意味不明であることが話題になった。自称医師という呼称は、医業をなすうえで必要な手続きに不備があったために、医師として扱うには問題があったからと思われる。具体的な手続きとしては、医師としての国の医籍への登録だけでなく、我が国の医療では国民皆保険制度による公的資金が利用されるものがほとんどのために、保健医としての登録や医療機関自体も登録する必要がある。検索すると、このクリニックは行政の医療機関一覧に出てくるので、保険医療機関としての登録はされているようである。ところが、その医師は厚生労働省の資格確認検索で該当者が出てこなかった。医師・歯科医師・薬剤師は名前を国に登録することになっており、医師は2年おきに申請する必要がある。最新の医籍の更新は今年1月であり、そこで手続きしていなかったことになる。保険医登録は診療する地域が変わったら手続きすることがほとんどであるし、医療機関の登録は更新期間に幅があるので医師は無登録だが医療機関は存在する状態になったのだろう。

意味不明な内容が羅列されている見づらいクリニックのサイトを見ていると、妻なのか女性の看護師が経営者ということになっている。理事長職は非医師でも就任できるが、管理者である院長は医師である必要がある。ただ、2023年1月以降は医籍に登録されていない状態なので管理者不在だが自称医師が診療を続けてきた状態になる。医師の逮捕時の苗字は妻の側のものであり、元々は旧姓だったことがわかる。医籍検索では現在の姓と旧姓の両方で調べてみたが、どちらも出てこなかった。手続きから更新までに時間がかかる面はあるが、その前回の手続きをしなかったら過去2年間も無登録で診療していたことになるわけだが、少なくとも今年の2年ごとの手続きをしていなかったのは間違いなさそうである。

同業者の間でも話題になったのは、その意味不明で支離滅裂なクリニックのサイトの記述である。銀行のポスターモデルになったとか漫画の題材になったとかアパート経営しているといった話や、訴訟入門の本の紹介とか家族構成で家族の写真が料理だったり、クリニックの診療とは全く関係ない内容が沢山記載されていて、受診しようと情報を探すには大変そうな内容である。職歴も延々書かれているのだが、現職なのか元職なのかはっきり書いていない。福岡市郊外で開業しているはずが、遠距離の熊本の病院の常勤と書いてあったり、実家と思われる病院の院長と書かれていたり、本業たる自分のところで診療をいつしているのかわかりにくい記述になっている。本当にあちこちで診療していて常時自分のところは不在だったとしたら、標榜している診療時間について保健所から指導が来てもおかしくない。

クリニックのサイトの内容から医師・非医師にかかわらず精神的に問題があるのではないかという指摘がされている。記述の支離滅裂さもそうだが、立てこもり事件を起こしたクリニックより前に何か所かの診療所や病院の院長をしていたが転々としている職歴や、急に妻の苗字に改姓しているなど、過去に何かしら問題を起こしてきたとも伺える点があるのは確かにそうである。そして、サイトには訴訟を抱えていると書かれている。妻は心の病気で不在と書かれている。恐らく、これも院長の医師の側に何かしら問題があって離婚訴訟となったのではないだろうか。

診療を行う医師がその状態だと、クリニックの経営はかなり不安定なものになるだろう。事件前に医師会などを退会していたとか、お金が無いが口癖だったといった事件前のエピソードもそれをうかがわせるものがある。その原因は院長の医師の人間性なのだが、資金確保を急ぐあまりに次々と手っ取り早そうなものに手を出している。クリニックのサイトにはスパイロメーターを導入したとか、プラセンタ注射やADAやバイアグラ処方まで謳っている。内科のはずなのに精神疾患も診ていて、これではもはや何を診る診療所か分からない。

このクリニックは定期通院する患者があまりいなかったと思われる。数年前までは歯科医院だったところを改装して開業後に数年間はそこで診療していたはずなのに、上の階に入居している学習塾の生徒の保護者からは「知らない男」として認識されていて、全然地域の医療機関として認知されていなかったことがうかがえる。外科のように手術や処置といった大きなイベントを抱えた診療科とちがって、内科で無床診療所だと検査手段が限られる中での簡素な身体診察くらいしかできることはなく、あとは処方である。内科の薬の薬価は昔からあるものなので安いものが多い。そのため、内科の個人診療所の維持を支援するために保健医療では管理指導という項目が定められている。高血圧とか糖尿病で定期通院する患者を多く確保すると、単発的な発熱とか感染とかの治療と違って、管理指導のために数千円加算した請求ができる。

逆に言えば、定期通院する患者が少ないと処置も手術も大掛かりな検査もできないクリニックの経営は厳しくなるのである。既存診療所を少し改装しただけで初期投資はそれほどかかっていないはずなのに金欠状態だったクリニックの経営状態は、まさしくそのような感じだったと思われる。それでも廃業して勤務医に戻らなかったのは、支離滅裂のサイトに延々と記載されている誇るようなものでも無いような内容に裏打ちされた見栄のためだろう。見栄を張っても現実はそうではなく、特に家庭の崩壊や経済的な現実のせいでいよいよ活動が制限されるようになって現実を突きつけられて、事件を起こしたのだろう。

何しているかよく分からないし地域住民の選択肢に入らないクリニック、建物は九大進学ゼミ(この地域で展開している学習塾チェーン)の跡地っぽいところに入居している、どういう成績層向けかわからないごった煮のような学習塾。西九州道の整備で客の減ったロードサイド飲食店、それもチェーン店ばかり。全てが余り物の寄せ集め感が満載で見ていてじわじわくる地域で、これまたじわじわくる事件が起こったのだった。

この事件にはじわじわくる後日談がある。クリニックのサイトで当面休業するとして他の医療機関を受診するように案内しているのだが、その場所が郊外からは通院時間がかかる中心市街地にあり、誘導先の医療機関のサイトでは精神疾患は扱っていないので他所を受診するように促していて、見当外れなところに受診を促していたのだった。